夢を与える

夢を与える

夢を与える

芥川賞作家 綿矢りさの受賞第一作作品。結局インストール (河出文庫)蹴りたい背中も読んでおらずこれが初作品となる。同年代の作家のためか文体自体はとても読みやすく意味を考えるために読み直すことはない。読み始めから一気に読了までひっぱる展開のおもしろさもある。伏線らしい伏線がないストーリーはその場の登場人物のみで話が閉じてしまう感がありちょっと残念。


さてストーリーの7割まではとても安心して読めた。清楚で活発で控えめな夕子のキャラクターはとても好印象で、感情の変化・成長による変化も素直に共感できた。しかし・・・途中で起こるとあるホテルでのワンシーン、これがその後の展開に大きな変化を与えることは容易に想像できる。そして左手に残るページ数が心許ない・・・。残りページで話が好転するわけもなく結局ささやかなハッピーエンドの願いは叶うことなく、後味の悪いバッドエンディングが待っていました。


「夢を与える」とは何かを物語中で自ら定義しながらも最後読者に夢を与えることなく終わらせてしまったあたりに、綿矢りさ自身が芥川賞受賞時に経験したであろう出来事にどうしてもリンクさせてしまい切ないです。